ネコのココロ

このところネコのレオンとふたり暮らしをしているが、
きのうはじめてレオンがぼくのベッドで寝ているのを発見。
やはり、一ヶ月近くふたりきりでいると、情が移るのだろうか。
いまさら情ってこともないか。いや、やはりあるか。
しばらくはホームシックにかかったみたいな不安定感があったが、
それはもう克服(!)したらしい。
そしてこの男がはたしてたよりがいがあるのかどうか、
心配しながらじっと見ていたのだろう。
トイレは毎日ちゃんときれいにしてくれるのか、
食事は金缶とモナークを中心に適度に変化をつけて、
毎日飢えないように準備していってくれるのか、
カーペットやじゅうたんに吐き散らかしたものを、
すいすいっとふき取ってくれるのか。
風呂場の水はいつも新鮮なのを満タンにしておいてくれるのか。
この男、けっこう朝帰りも多いし、ヤニ臭かったり酒臭いときも多いから、
不安なんです。
まあ、でも、いまのところ70点くらいかしら、期待以上ってわけじゃないけど、
最低ってこともないわね、あらやだ、女言葉になっちゃったわ、
ちがうのよぉ、おねえことばよぉ、
そうだそうだ、オスだもんね。
そっか、オスかあ。きょうもぼくのベッドにもぐりこんでくるのかな。

奇跡の捕球

野球で奇跡的なファインプレーをしてしまった。
相手チームもびっくりするやらあきれるやらで、拍手するしかないって感じだった。
守備でしかチームに貢献できなかったが、まあ、よしとしよう。
試合は8−5で勝っていた。でも追い上げられている。
投手交代直後で、三回の表一死、相手のランナーが二、三塁にいる。
ぼくは守備位置替えでライトからファーストに移っていた。
何球目だったか、バッターが速球にバットを当てた。
珠はフラフラッとぼくのほうに上がってきた。
一塁後方のフライだ。セカンドが回り込むか、ライトが思いっきり前進するか。
ぼくはくるりと外野のほうに向き直って、走った。
そして急ブレーキをかけ、上を見た。フラフラッと上がったボールが、
落ちてくるところだった。グラブを前に差し出した。ボールはすぽっとそこに収まった。
それだけのこと。ほんの一、二秒の間の出来事だろう。
でもこれを落としたら、確実に一点か二点を失っていた。
ホームに背を向けてフライをとったのは初めてのことだ。
ボールを見ながら後ずさりしていたら、きっと捕れなかっただろう。
微妙な判断、間合いがすべてばっちりかみあって、捕球できた。
それで投手も次の打者を三振にとり、ピンチを脱出。
結局8−5のまま最終回を終わって勝ち、ベストエイト進出だ。

羽が生えない

とうとう恒例になってしまった「一日一企画」提出義務。
まあ、ミソもくそもいっしょってことだから、
毎日数十本上がってくる企画を審査する営業が忙しくなるだけ。
ろくに中身を見ず、タイトルの感じだけで「ボツ」にしたり。
編集にまた徒労感が蔓延している。
それにしても本に羽が生えなくなった。
わざわざ羽をもいで市場に送り出しているのか?と疑われてもしかたがない。
重たい本を作ってるわけではないのに、根を下ろしたように、
書店の棚から飛び立ってくれない。
軽く作ろうとしても、なかなか軽くならない。
むずかしいもんだ。

フランスのこと

なんともはや。花の季節の長かったこと。
ようやく葉桜、八重桜、ケヤキの若葉の候とはなりにけり。
ところで花を愛でてる暇はなかった。
このところ一日一企画。これが義務付けられて約2週間。
毎日企画作りに明け暮れて、本を作る暇がないくらいだ。
そのひとつ、きょう、苦し紛れに出してしまった好企画、は次のようなもの。
「フランスが揺れた200日」
現地学生・大学院生による生々しいレポート!
若者の失業率22%のフランスで、なんとか企業の雇用意欲を高めようとして
首相が提出しようとした法案〈雇用して2年以内なら企業は雇用者を理由なく解雇できる〉
これに対して(皮肉にも?)全仏の学生・労働者が激しく反発し、
ゼネストや警察との衝突を含む街頭闘争に発展、とうとう首相は法案提出を撤回した。
(こんどは自分の首があやうくなってるらしい。)
まあそんな内容の〈闘争勝利〉のドラマを発端から追いかけたドキュメンタリー。
新聞や雑誌を翻訳し、つなぎ合わせて、ブックレットでできないものだろうか?

巨大な感情

ふと思った。
世の中には、巨大な感情の勢いというものがある。
それは、マスコミに誘導されるケースもあるが、マスコミは
きっかけをつくるにすぎないともいえるだろう。
ある方向に向かって動き出した巨大な感情が、ふっと方向を見失う。
すると、行き場を失った感情のエネルギーは、しばらく宙に浮いて、
やがてどこへともなく消えてしまうようにも見えるが、
じつは巨大な欲求不満として、どこかに残っているのである。
たとえば、最近ではホリエモン
期待だけではなかったにしても、多くの人がホリエモンに託したものは、
始末されないまま、宙に浮いている。
これに近いと思うのが、もう十五年くらい前のことになるか、
貴乃花宮沢りえの婚約&婚約破棄事件だ。
あのときのふたりはほとんど「ロイヤル・ウェディング」に近い存在で、
国民的祝福のさなかにいた。それが理由のよくわからない破談。
大きな感情の塊が、あのときも行き場を失った。
すんなりとカタルシスへと至らせてくれない。
おそらくそれは、なにかしら不健康なものを後に残す。
どうということのないものへの過剰な熱狂、なども、
その後遺症のひとつかもしれない。

冬眠明け

いやはや、ここまで風邪が長引くとは思いもしなかった。
ほぼ半月かかって、まだ気管支炎が残っている。
会社を休んだのは今日を入れて二日。土日を二回ダウンして過ごした。
酒は少し飲んだが煙草は全然吸っていない。
大きく見れば、冬眠。そう思うことにしよう。
三月に入ると、きっと気分一新だ。

ある一日・昼の巻⑧

じつはここまでしか書いてない。
三年かかってここまでなのです。
とりあえず、続きはしばらくお待ちください。


ある一日 昼の巻⑧


 昼は基本的にひとりで食べる。でも誘いはほとんど断らないし、複数で食事するときには、たいてい相手に合わせる。自分がひとりで行くような場所に、連れを案内することはまずない。それが彼のランチ・スタイルだ。
 ひとりだと、誰に遠慮もしなくていい。見栄も張らなくていい。好きなもの、おいしいものをふところ具合と相談しながら自由に決めることが出来る。たとえば、ひとりだと定期券で移動できる範囲で違う町に行くこともできる。大学の学食にもいけるし総菜屋でおかずとご飯を買ってお堀端のベンチで池の鯉を見ながら食べることもできる。単独だと入りづらい店もある。たいていは比較的値段の高い店だ。そういう店では昼の短い時間でたくさん売り上げようとして、効率とか回転率とかを高めるよう教育された案内係がいるから、そのいいなりになるしかなく、テーブルに相席を強要されるので気分は落ち着かない。
 さて、同僚たちは混雑する時間帯を避けて、1時過ぎとか、場合によってはランチタイムの終わった2時過ぎに出るものも多い。彼はほとんど朝食をとらずに出てくることが多いので、昼前に空腹感がつのるタイプだ。今日は、朝食はとったとはいえ始発の電車で仮眠しただけなので、体力の消耗がふだんより烈しいらしく、すでに腹の虫はぐうぐう鳴っている。
 ビル周辺は、どちらかといえばオフィス街で、昼食時間ともなるとどっと人がくりだす。ただ、昼間人口の胃袋を満たすほどに食堂・レストランの数は多くない。そこで、店によっては行列ができる。それをきらって、コンビニの弁当ですます人もけっこういる。弁当屋は、専門店もあるし、すさまじい種類のおかずをとりそろえている惣菜ショップもある。また、この時間だけ軽トラを改造した弁当販売車が裏通りに店を広げていたりする。
 彼の足は最近よく通うようになった一角に向かっている。
 少し前、松屋で売り出した「チキンカレー290円」に、予想よりずっと本格的なカレーだったので感動し、しばらくそればかり食べていたことがあったが(一日三食食べても千円いかない!)、さすがに飽きて、いまはその二軒となりの立ち食いそばに毛の生えたような店がお気に入りだ。
 注文したものを受け取ってトレイに乗せ、二階に運べば広いスペースでゆっくり食べられる。混雑時でも人であふれていることはない。穴場といえるだろう。彼はそこでそば湯を飲みながら何時間も本を読んで過ごしたことがある。しかも、24時間やっている店なのだ。かき揚げ丼、とろろ丼、ねぎとろ丼、この三種類のどんぶりとそばのセットが基本だ。そばにもかけ、ひやかけ、もりの三種類があり、自由に組み合わせられる。ひやかけというのはほかで聞いたことがないが、冷えたつゆがそばにかけられたもので、夏向きだ。
 こういう組みあわせで値段は安く、ねぎやわさびは勝手に使い放題、とくれば、もっと人気が出てもよさそうなものだが、意外にこういう店に来る客は口コミしない、つまり人に教えないのかもしれない。案外、彼の同類が知らず知らずのうちに集まっているのかもしれない。彼は「かき揚げ丼セット(そばはもり、そば湯つき)」(480円)を乗せたトレイを窓側のカウンターに置き、腰を下ろした。